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在職老齢年金の「壁」が緩和へ――令和8年4月から支給停止の基準額が引き上げに

  • Takashi Fukunaga
  • 5 日前
  • 読了時間: 3分

少子高齢化が進み、長年培った経験や知識を持つベテラン層の活躍がこれまで以上に期待される中、働くシニア世代の背中を後押しする制度見直しが予定されています。

それが、在職老齢年金における支給停止の調整基準(いわゆる支給停止調整額)の引き上げです。


在職老齢年金は、老齢厚生年金を受け取りながら厚生年金の被保険者として働く場合に、一定の条件下で老齢厚生年金(主に報酬比例部分)が減額される仕組みです。

これまでは、賃金と老齢厚生年金の合計が一定額を超えると年金が調整されるため、あえて働く時間を抑えたり、収入を調整したりするケースが起こりやすい構造がありました。

今回の見直しは、こうした「損をしないための就業調整」を緩和し、高齢者の就業継続を後押しする趣旨と整理できます。


見直しのポイントは、年金の支給停止が生じる“起点”となる基準額が引き上げられることです。

日本年金機構および厚生労働省の資料では、令和8年4月から、賃金と老齢厚生年金の合計による基準額が「月51万円」から「月62万円」に引き上げられることが示されています。

ただし、この基準額は賃金の動向等を踏まえて毎年度改定される仕組みであるため、実務上は「令和8年4月時点での改定後基準額が62万円となる」という理解が適切です。


計算の考え方は、基本的には従来と同様です。

判定に用いられるのは、老齢厚生年金の月額(基本月額)と、賃金を月換算した額(総報酬月額相当額)の合計です。

総報酬月額相当額は、毎月の標準報酬月額に加え、直近1年間の標準賞与額の合計を12で割って月換算した額を足して算出します。


そして、基本月額と総報酬月額相当額の合計が基準額を超えた場合、超えた分の2分の1が老齢厚生年金から支給停止される、という枠組み自体は維持されます。

今回の改正で変わるのは「どこから支給停止が始まるか」という起点であり、起点が高くなることで、支給停止の対象となる人が減ることが見込まれます。


この引き上げが意味するところは小さくありません。

基準額が引き上がれば、これまで「収入を増やすと年金が減る」という感覚が働き、役職や専門性に見合った働き方をためらっていた層にとって、就業継続の選択肢が広がります。

個人にとっては就業意欲の低下要因が一つ減り、企業にとっても貴重な戦力を確保・維持しやすくなる効果が期待されます。


一方で、注意点もあります。

この見直しは、老齢厚生年金を受給しつつ、厚生年金の被保険者として働く人に関係する仕組みです。

また、賞与の額が大きい場合は、月換算した額が判定に影響するため、年収だけでなく「直近1年の賞与を含めた見込み」を踏まえた確認が重要になります。


制度が動くタイミングに合わせて、自身の収入と年金の組み合わせがどう変化するのかを一度シミュレーションしておくことは有益です。

国が「働く高齢者を支える」方向へと制度を見直す中で、経験を社会に還元しながら、納得感のある働き方と生活設計を組み立てるための土台が整いつつあります。

この機会に、働き方や役割、報酬設計を改めて点検してみるのもよいでしょう。

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