「定年」は後ろに倒れ始めた。70歳までの就業確保が3社に1社へ。
- Takashi Fukunaga
- 2 日前
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日本の労働市場で「定年」という概念が、静かに、しかし確実に揺らいでいます。
厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」によると、70歳までの就業確保措置を実施している企業の割合は34.8%に達しました。
これは2025年6月1日時点の状況で、常時雇用する労働者が21人以上の企業を対象とした集計です。
この数字を「まだ3割ちょっと」と感じるか、「もう3社に1社」と感じるかは分かれるところです。
ただ、少子高齢化が極まった2026年の日本では、これは単なる理想論ではなく、企業が人材を確保し続けるための現実的な選択肢になりつつあります。
背景にあるのが、改正高年齢者雇用安定法です。
70歳までの就業確保は、企業にとって「努力義務」として求められる位置づけになっています。
義務ではないとはいえ、数年を経て現場に少しずつ土壌ができ、取組が“特別なこと”ではなくなってきました。
措置の中身は、いまや一つではありません。
定年そのものを引き上げる。
定年制を廃止する。
65歳までと同様に継続雇用制度を整える。
さらに、雇用に限らず、創業支援等の措置として、業務委託や社会貢献事業への参画などを支援する道も制度上は想定されています。
「70歳まで働けるようにする」と一口に言っても、会社によって設計図は大きく違ってよい、という時代に入っています。
企業側の悩みは、ここからです。
人手不足を補うためにベテランの経験値は欲しい。
しかし同時に、賃金体系をどうするか。
役職や処遇をどう再設計するか。
若手とのバランスをどう取るか。
この調整を避けて通ることはできません。
働く側にとっても、70歳までの就業が広がることは、手放しで明るい話だけではありません。
生活の見通しが立ちやすくなる一方で、体力や健康の不安が現実味を帯びます。
そして「いつまで働くのか」という問いは、制度が整うほど、個人に迫ってきます。
かつて「人生60年」と言われた時代がありました。
今は、70歳が「もう隠居」ではなく、「まだ動ける」「まだ活躍できる」年齢として扱われ始めています。
34.8%という数字は、単なる統計ではありません。
社会の側が「働き続ける」を標準として受け止め始めた、という合図でもあります。
だからこそ、これから必要になるのは、形だけの延長ではなく、続けられる働き方の中身です。
モチベーションをどう保つか。
健康をどう守るか。
役割をどう作り直すか。
会社と本人が、無理なく前を向ける設計を持てるかどうか。
2026年の今、私たちは「働かされる70歳」ではなく、「自分で選べる70歳」に近づけるかどうかの岐路に立っています。
定年が後ろに倒れていく音は、もう聞こえ始めています。

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