勤務間インターバル制度と「短納期発注」是正の努力義務―働き方改革の中で見落としがちな2つのポイント―
- Takashi Fukunaga
- 3 時間前
- 読了時間: 5分
2019年4月施行の働き方改革関連法では、時間外労働の上限規制や年次有給休暇5日の時季指定義務、月60時間超の残業に対する割増率引上げなど、企業にとってインパクトの大きい制度が注目されてきました。
一方で、同じ改正パッケージの中に位置付けられながら、比較的「後回し」になりがちなテーマとして、「勤務間インターバル制度」と「取引慣行の見直しに関する努力義務」があります。
どちらも、長時間労働の是正や健康確保、多様な働き方の推進という観点から重要であり、今後の人事・労務施策を考えるうえで押さえておきたいポイントです。
勤務間インターバル制度は、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までに一定時間以上の休息時間を確保する仕組みを指します。
法律上の位置付けとしては、「労働時間等設定改善法」の改正により、事業主が終業から始業までの時間の設定について必要な措置を講じるよう努めなければならない、という「努力義務」として導入されました。
現時点では、罰則を伴う義務ではありませんが、長時間労働の抑制や、深夜残業・早朝出勤が続くことによる健康リスクを軽減する観点から、厚生労働省として普及を図っている制度です。
実務上、勤務間インターバル制度は「何時間あければよいか」がしばしば話題となりますが、現行法令では具体的な時間数までは義務付けられていません。
欧州の基準である「11時間」を参考にしつつ、自社の業種・勤務形態に応じて、例えば「9時間」「10時間」など、現実的に運用可能な範囲で設定している企業も見られます。
制度導入に当たっては、「就業規則上の所定労働時間や始業・終業時刻との関係をどう整理するか」「シフト勤務や宿直・当直がある部署をどう扱うか」「管理職を含め全員を対象とするか」といった点を明確にしておくことがポイントとなります。
なお、時間外労働の上限規制や健康確保措置と組み合わせて検討することで、単に「インターバルを確保する」だけでなく、全体として長時間労働を抑えていく方向性が求められます。
また、勤務間インターバルとあわせて押さえておきたいのが、「取引慣行の見直し」に関する努力義務です。
労働時間等設定改善法の改正では、他社との取引において、著しく短い期限での発注(いわゆる短納期発注)や、発注内容の頻繁な変更など、相手方の長時間労働を助長しかねない取引条件を付さないよう配慮することが事業主の努力義務として位置付けられました。
これは、自社内の労働時間管理だけでなく、サプライチェーン全体で長時間労働を是正していくという考え方に基づくものです。
人事・労務担当者としては、「取引慣行」は一見、営業部門や購買部門のテーマに見えますが、実際には残業時間や休日出勤の発生状況と密接に関係しています。
例えば、顧客企業から「金曜日の終業時刻後に発注が来て、月曜日朝一番の納品を求められる」といったケースや、自社が下請先に対して「夕方に仕様変更を伝え、翌朝までの対応を依頼する」ようなケースでは、現場の担当者に極端な長時間労働や連続勤務を強いることになりかねません。
こうした取引条件が常態化していると、時間外労働の上限規制を遵守することが難しくなるだけでなく、メンタルヘルス不調や離職リスクの高まりにもつながります。
そこで、働き方改革を進めるうえでは、社内の時間外労働や年休取得状況の把握に加えて、「どのような取引条件・発注パターンが長時間労働の原因になっているか」を洗い出す視点が重要です。
例えば、月末・期末などに受注・発注が集中していないか、週末や深夜に発注を行っていないか、大きな仕様変更の依頼を短納期で行っていないか、といった観点で棚卸しを行うことが考えられます。
そのうえで、可能な範囲で発注時期の平準化や納期の見直し、仕様確定の前倒しなどを検討し、取引先との間で「お互いに無理のない納期設定を行う」ことを共通認識としていくことが、結果的に労働時間管理の安定にもつながります。
このように、勤務間インターバル制度と取引慣行の見直しは、いずれも「努力義務」という位置付けであり、直ちに罰則が科されるものではありません。
しかし、時間外労働の上限規制や長時間労働者への医師面接指導義務、産業医・産業保健機能の強化など、既に義務化された措置と連動して、企業の労働時間管理や健康確保措置の「質」が問われる局面が増えています。
万一、過重労働による健康障害や安全衛生上のトラブルが生じた場合には、「勤務間インターバルや取引慣行の見直しといった努力義務について、どの程度対応していたか」が、会社側の説明の一部として確認される可能性もあります。
2026年4月は、「子ども・子育て支援金制度」や「治療と仕事の両立支援の努力義務化」など、人事・労務分野の法改正対応が重なっている時期でもありますが、こうした個別テーマの対応とあわせて、「長時間労働を前提としない働き方」に向けた社内ルールと取引慣行の双方を見直す視点を持つことが、今後の実務対応では重要になってきます。
勤務間インターバルや取引慣行の見直しは、一度に大幅な変更を行うのではなく、自社の実情に応じて、まずは現状把握と課題の洗い出しから進めていくことが現実的なアプローチと言えるでしょう。

コメント