はじめての労務管理:残業代の基本と「固定残業代(みなし残業)」の押さえどころ
- Takashi Fukunaga
- 19 時間前
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本日は、これまで整理してきた「労働時間の原則」「36協定」「労働時間の実態把握」といった“時間管理”の話から一歩進んで、その結果として必ず問題になる「残業代」の基本、とくにトラブルになりやすい「固定残業代(みなし残業代)」について、ポイントを整理したいと思います。
前提となるのは、労働基準法が「1日8時間・1週40時間」を法定労働時間とし、これを超える時間外労働、法定休日労働、深夜労働については、それぞれ法定以上の割増賃金を支払う義務を定めているという点です。
時間外は25%以上(中小企業でも月60時間超部分は将来的に50%以上)、法定休日労働は35%以上、深夜労働は一律25%以上の割増率が必要となり、時間外と深夜が重なれば率も加算されます。
残業代の計算は「①割増賃金の基礎となる1時間あたりの賃金額」を算出し、「②対象となる時間数」に「③法定以上の割増率」を乗じる、という順番で考えると整理しやすくなります。
このとき、「割増賃金の基礎に算入するかどうか」が問題になる手当についても、あらかじめ整理しておくことが重要です。
家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当など、政令で定める“一定の手当”は基礎から除外できますが、名称ではなく「実態」で判断されますので、実質的に職務給や能力給に近いものを形式的に“家族手当”と称しても、自動的に除外されるわけではありません。
賞与は原則として基礎から除外できますが、実質的に毎月支払っている出来高給的な性格の場合には注意が必要です。
ここが曖昧なまま「年俸制だから残業代込み」「営業手当で残業代を包括している」といった説明をしてしまうと、後に大きな未払いリスクにつながります。
実務でとくに紛争が多いのが、「固定残業代(みなし残業代)」の扱いです。
固定残業代自体は、法的に禁止されているわけではなく、「一定時間分の時間外・休日・深夜労働の割増賃金を、あらかじめ定額で支払う」仕組みとして認められています。
ただし、適法に運用するためには、①固定残業代部分と基本給部分を明確に区分していること、②何時間分の残業に対応するのか(時間数)が就業規則・雇用契約書等で明示されていること、③固定残業代の額が、その時間数に対する法定割増賃金額以上になっていること、④固定残業時間を超えた分については別途割増賃金を支払う運用が行われていること、といった点が欠かせません。
これらが不十分な場合、固定残業部分が「通常の賃金」と評価され、あらためて全時間分の残業代を支払うべきと判断されるおそれがあります。
また、「みなし残業だから残業時間の把握は不要」という考え方は、労働基準法・労働安全衛生法双方の観点から成り立ちません。
固定残業代を導入していても、実際に何時間残業しているかを把握しなければ、①固定時間数を超えた残業分の割増賃金を支払えない、②36協定や上限規制の範囲内か確認できない、③長時間労働者への医師面接指導など健康確保措置がとれない、という問題が残ります。
結果として、勤怠記録と賃金計算、36協定の運用、健康管理のいずれもがちぐはぐになり、監督署調査や個別紛争の際に一度に問題が噴出するリスクがあります。
さらに、いわゆる「管理監督者だから残業代不要」という説明も、慎重さが求められます。
労働基準法第41条にいう管理監督者にあたるかどうかは、役職名ではなく、勤務時間の裁量性や賃金・待遇、経営への関与度合いなどを総合的に見て判断され、実務上は相当限定的に解されています。
そのため、課長・店長クラスを一律に管理監督者扱いして残業代を支払わない運用は、後に労働時間・残業代請求訴訟で否定されるケースが少なくありません。
固定残業代の導入や管理監督者の適用は、「残業代を抑えるための仕組み」というよりも、「一定以上の時間外労働が発生する職種・ポジションに対する処遇の設計」と位置づけておく方が、安全な運用につながりやすいといえます。

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