出勤停止期間と傷病手当金――「労務不能」の判断をめぐる重要な裁決例
- Takashi Fukunaga
- 2025年12月19日
- 読了時間: 3分
アルコール依存症の療養のために労務に服することができなかった期間について、会社から出勤停止を命じられていたことを理由に傷病手当金が不支給とされたものの、後の審査でその処分が取り消された事例があります。
本稿では、この裁決例をもとに、傷病手当金の支給要件である「療養のため労務に服することができない」という要件が、労働契約上の労働義務の有無とどのように関係づけられるのかを整理します。
本件では、被保険者がアルコール依存症と診断され、医師の指示のもと療養を要する状態にありました。
そのため一定期間欠勤していましたが、この期間中、会社は就業規則に基づき当該従業員に対して出勤停止を命じています。
被保険者は、この出勤停止期間について傷病手当金を請求しました。
しかし、保険者はこれを不支給と決定しました。
不支給とされた理由は、会社から出勤停止命令が出ている期間については、労働契約上、労働者が労働を提供する義務そのものが発生しないと整理される点にありました。
すなわち、そもそも労働義務が存在しない以上、「労務に服することができない」という状態を観念することはできず、傷病手当金の支給対象にはならない、という形式的な解釈が採られたのです。
これに対し、被保険者が行った審査請求において、この原処分は取り消されました。
裁決が示した判断の核心は、出勤停止という処分の名称や、労働義務の有無といった形式面にとらわれるのではなく、健康保険法上の支給要件を実質的にどう捉えるか、という点にありました。
裁決では、傷病手当金の支給要件は、あくまで「療養のため労務に服することができないこと」と「報酬を受けていないこと」であり、その日が労働契約上、労働義務のある日であるかどうかは、要件として求められていないことが確認されています。
仮に出勤停止や自宅待機などの措置により、形式的には労働義務が発生しない状態にあったとしても、医学的に見て傷病のために労務不能の状態にあり、現実に賃金も支払われていないのであれば、傷病手当金の支給要件を満たし得る、という整理です。
本件においても、被保険者はアルコール依存症という傷病について療養を要する状態にあり、医師の意見から見ても労務に服することができない状況にありました。
そのため、出勤停止が命じられていたという事情のみをもって、支給要件を欠くと判断するのは相当ではないとして、不支給決定は取り消されています。
この裁決は、就業規則上の処分や労働契約上の形式的な整理よりも、傷病の有無や労務不能の実態を重視すべきであることを明確に示したものといえます。
傷病手当金制度が、傷病によって働くことができず、賃金を得られない被保険者の生活を保障する制度であることを踏まえれば、制度趣旨に沿った実質的な判断が求められることを再確認させる事例といえるでしょう。

コメント