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2026年度の「高年齢者」と「治療と仕事の両立支援」―4月施行分をどう実務に落とし込むか―

  • Takashi Fukunaga
  • 1 時間前
  • 読了時間: 5分

2026年4月は、人事・労務の実務に直結する法改正が一斉に施行されました。

その中でも、「高年齢で働き続ける従業員」と「治療と仕事を両立しながら働く従業員」に関する改正は、今後数年を見据えた人員構成や人件費、配置運用に影響しうるテーマです。

2025年4月に高年齢者雇用安定法や高年齢雇用継続給付の見直しが既に行われていることを踏まえると、2026年4月の改正は、「就業継続」が当たり前になっていく時代において、安全衛生と健康確保を中心に職場側の対応を求める第二段階とも位置付けられます。


まず、高年齢労働者に関する改正として、「在職老齢年金の支給停止基準額の引上げ」と「高年齢者の労働災害防止の推進」が同時にスタートしています。

在職老齢年金については、老齢厚生年金の支給停止となる収入基準である「支給停止調整額」が、2025年度の51万円から2026年4月以降は65万円へと大きく引き上げられました。

これにより、賃金と年金を合算した月額が65万円を超えない限り、老齢厚生年金が支給停止されないため、60歳代以降も比較的高い水準で働き続けることへの心理的ハードルが下がることになります。

従来は、「これ以上働くと年金が減るので勤務日数を抑えたい」という相談も多く見られましたが、今後は「もう少し長く・もう少し多く働きたい」という意向が強まる可能性があり、人事・労務担当としては、就業調整の相談が減る一方で、シフトや役割分担をどう設計するかという別の課題が出てくることが想定されます。


一方で、在職老齢年金の見直しと表裏一体のテーマとして、「高年齢労働者の労働災害防止の推進」が労働安全衛生法上の努力義務として位置付けられました。

60歳以上の労働者が占める労災件数は年々増加しており、転倒・墜落転落・腰痛といった典型的な災害に加え、暑熱環境下での作業負担など、年齢特性に起因するリスクも顕在化しています。

今回の改正では、事業者に対し、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理、安全衛生教育などを講じることが努力義務とされ、その具体的内容を示す「高年齢者の労働災害防止のための指針」が策定されることになりました。

直ちに就業規則改定といったレベルの義務までは課されていませんが、自社の就労実態に応じて、どの部署に高年齢者が多いのか、どの作業が身体的負担や転倒リスクを伴いやすいのか、といった基本的な棚卸しから始めておくことが求められます。


高年齢者に関するこれらの流れは、2025年4月の「高年齢雇用継続給付の支給率引下げ」や「高年齢者雇用確保措置の完全義務化」とあわせて捉えると整理しやすくなります。

すなわち、60歳以降の雇用については、「賃金水準を含めた就業条件は各社で工夫をしつつ、原則65歳までは雇用を確保し、そのうえで働き続けたい人が安心して就労できるよう、年金制度と安全衛生面の双方から支える」という方向性が、一連の改正から読み取れます。

人事・労務担当者としては、高年齢者向けの再雇用契約や処遇テーブルの見直しを行う際に、「年金」「安全衛生」「就業配慮」の三点をセットで念頭に置いておくことが重要です。


次に、「治療と仕事の両立支援」に関する改正です。

2026年4月からは、労働施策総合推進法上、「職場において治療と仕事の両立を支援するための措置を講じること」がすべての企業にとって努力義務となりました。

がんや脳・心疾患、メンタルヘルス不調、難病など、長期的な治療が必要な疾病を抱えながら働く従業員は年々増えており、これまでも厚生労働省のガイドライン等に基づき任意で取り組んでいた会社もありましたが、今回の改正により、国が「両立支援指針」を公式に示し、その指針を踏まえた対応を行うことが求められる位置づけとなります。


両立支援指針では、まず「安全と健康の確保」を最優先としつつ、従業員本人による申出を起点に、症状や治療内容、勤務上の制約などについて必要な範囲で情報を把握し、勤務時間・勤務日数・業務内容・勤務地などの調整を検討する流れが示される見込みです。

併せて、会社としては、両立支援に関する基本方針の表明と周知、相談窓口や担当部門の明確化、社内制度(短時間勤務、時差出勤、在宅勤務、休職制度等)との関係整理、産業医や主治医・外部支援機関との連携、といった環境整備が例示されています。

実務的には、既存の「私傷病休職規程」や「時短・在宅の運用」とどう接続するかがポイントであり、新たな制度を一から作るというよりは、今ある仕組みの中で「治療と就業の両立」という観点が抜けていないかを確認する作業が中心になります。


この「治療と仕事の両立支援」の努力義務化は、2025年の育児・介護改正で義務付けられた「個別の周知・意向聴取」や、2025年10月施行予定の「3歳〜就学前の柔軟な働き方のための措置」といった流れと、構造がよく似ています。

すなわち、会社側に「一定の制度や環境整備」を求めるだけでなく、「個々の従業員の事情を踏まえた個別対話」と「その意向を踏まえた配慮」をセットで求める方向に、法制度全体がシフトしているということです。

育児・介護・治療・高年齢という各テーマをバラバラに見るのではなく、「ライフイベントや健康状態の変化に応じて、個別の相談を受け、可能な範囲で働き方を調整する」という共通のフレームで整理しておくと、社内の説明や管理職への研修も一貫性を持たせやすくなります。


2026年4月は、ここまで触れた高年齢者と治療・両立支援に加えて、子ども・子育て支援金制度の開始、健康保険の被扶養者認定における「年間収入」取扱い変更、女性活躍推進法に基づく情報公表義務の拡大など、幅広いテーマの改正が同時に動き始めた月でもあります。

これらを単発のトピックとして個別に処理しようとすると、年間を通じて常に何かに追われる状態になりかねませんが、「2026年度の実務カレンダー」の中で、高年齢者関連は再雇用契約更新時期や定期健康診断の時期、両立支援は健康診断結果のフォロー面談や休職復職面談のタイミング、といった形で、既存の年次イベントに結びつけて整理しておくと、現場への負荷を抑えつつ対応しやすくなります。

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